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「なぜ、上流の水の流れは透明なのか」


―河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える―


第4章 「砂防堰堤」(2/4)−第2節


第2節 「砂防堰堤」の問題点

「砂防堰堤」の建設によって最初に発生する現象
 新たに建設された砂防堰堤では、建設後に水流が溜まって上流側に貯水池が出現します。貯水池には流下して来た様々な大きさの土砂が次第に堆積するので、やがて貯水池は土砂で埋まってしまいます。ですから、この貯水池が長い間存在し続けることはありません。

 堰堤の建設直後には、貯水池より上流側の傾斜によって、様々な大きさの土砂が流下して来て流れ込みやそれに続く貯水池に到達します。 しかし、堰堤に貯水された水によって流れは穏やかになりますから、流下して来た土砂の多くは、貯水池の流れ込み付近に多く堆積するようになります。
 流れ込みとその近くに土砂が多く堆積するので、それらの場所の傾斜は以前よりも穏やかなものとなります。大きな石や岩が堰堤の本体の近くにまで達することは少なくなり、貯水池の深みに流れ込む土砂はその多くが小さな石や岩と小さな土砂ばかりになります。
 上流であっても、通常の増水の際に流下して来るのはそのほとんどが小さな土砂である事が多いのです。  

 増水がある度に上流から土砂が流下して来ますから、貯水池への土砂の堆積は続き、やがて、貯水していた場所には、堰堤の上端と同じ高さにまで土砂が堆積して貯水池は消失します。
 貯水池に大量に堆積した土砂のほとんどは、堰堤建設以前に堰堤上流側の流れに見えた石や岩より小さな土砂です。流れ込みの上流側から流下して来た大きな石や岩が、流れ込みやその近くの場所を流下して、堰堤近くにまで到達することは困難です。つまり、かつて貯水池があった場所の堆積土砂では、以前の流れにあった大きな石や岩を見ることが少なくなり、それらより小さな石や岩そして砂利や小砂利や砂が多くなります。
 それらの土砂のほとんどは、砂防堰堤が無ければもっと下流にまで流れ下って行ったはずの土砂なのです。
 貯水池が土砂によって埋まった場所でも、当初の流れ込みの場所でも、引き続き土砂が堆積し続けます。
 上流側から続いて来た川床の傾斜が、流れ込みの場所で突然に平坦になることはありえません。土砂は、堰堤上端から、流れ込みよりも上流部に向けて、なだらかな曲線を描くような河床を形成して堆積していきます。
 堰堤上流側全体の流れが穏やかになりますから、流れ込み箇所の上流側でも小さな石や岩と小さな土砂が多く堆積し、それらの堆積区域は上流に向かって遡り続けます。傾斜が穏やかになった場所の水流が大きな石や岩を流下させることは無いのです。

 砂防堰堤建設後、増水のたびに堰堤上流側への土砂堆積が続きます。堰堤上流側の穏やかな傾斜が堰堤建設地よりずっと上流にまで遡る現象は、堰堤から流れ込みまでの距離が長い程に顕著に出現するようです。
 砂防堰堤の建設後これらの現象が生じるまでの期間は、それぞれの砂防堰堤によって異なっています。言うまでもなく、土砂の流下量が多い流れほど貯水池が埋まってしまうまでの期間が短く、貯水池が大きくて深いほど埋まってしまうまでの期間が長いのです。
 やがて、上流から流れ込む水流は、以前より小さな石や岩と小さな土砂が大量に堆積した河川敷の上を流れて、堰堤の上端から下流へと流れ落ちるようになります。

「砂防堰堤」の上流側に発生する不都合
 砂防堰堤は高さがありその上端が水平ですから、堰堤の建設以前には深いU字型の横断面をしていた河川敷は、上昇して平坦に大きく広がり、その堆積土砂は新たに広がった谷間の幅一面に堆積して、貯水池より上流に向けて面積を拡大し続けています。
 傾斜が極めて少ない砂防堰堤間近の流れには、「淵」や「荒瀬」は無く「平瀬」や「ザラ瀬」ばかりで、場所によっては砂や砂利ばかりになっている場合もあります。また、流れ込みよりも上流側に遡って土砂が堆積した流れでは、元あった「淵」や「荒瀬」は、その多くが小さな土砂で埋まっています。

 砂防堰堤上流側では、堆積した土砂により河床が上昇し、同時に地下水位も上昇するので、以前は岸辺にあった木々や山裾の斜面にあったはずの木々も、新たに堆積した土砂に埋もれ、立ち枯れし、或いは流木として流下します。
 砂防堰堤上流側に広がった河川敷には、小さな石や岩と小さな土砂が多いので、水流が蛇行する機会が増えます。また、増水の規模が大きくなれば、水流は河川敷の幅一杯に広がり小さな石や岩と小さな土砂を流下させることも多くなります。増水の度に蛇行して流れ、或いは広がって流れる水流は、河川敷に新たに成長した草や樹木もなぎ倒してそれらも流下させます。
 それまでは河川敷の上部であったはずの山腹に水流が直接当たる事も増えますから、山腹が侵食されて崩壊することも多くなります。砂防堰堤の上流側にあった林道などの基礎部分を崩壊させることも珍しくありません。
 つまり、砂防堰堤に期待されていた山裾を安定化させる効果とは真逆の効果も生じています。

 全ての砂防堰堤の上流側に、ここに記述したような、小さな石や岩と小さな土砂が広がって堆積する現象が生じているのではありません。でも、多くの砂防堰堤の場合でこれらの現象が発生しています。
 例えば、ようやく乗り越えた砂防堰堤の上流側に、砂や小砂利ばかりで水流も無ければ植物も生えていない運動場のように広い河川敷を見つけた経験があります。また、砂防堰堤の上流側で、大きな石や岩が少しあるものの、その他にはそれらよりずっと小さな石や岩ばかりの河川敷を見る機会は多くあります。
 上述の状況が甚だしい場合もあれば、それほど酷くはない場合もあります。上述の現象の発生の仕方は、それぞれの砂防堰堤ごとにその程度が異なっています。

「砂防堰堤」上流側の「自然の敷石」と「自然の石組」
 砂防堰堤の上流側に広がる大量の土砂堆積が引き起こす不都合は、上述の事柄だけではありません。砂防堰堤の上流側では重大な不都合が生じています。
 問題は、砂防堰堤の建設後に、砂防堰堤の上流側に形成される「自然の敷石」と「自然の石組」の石や岩の大きさが、堰堤建設以前のそれらよりも小さくなってしまうことにあります。「自然の敷石」と「自然の石組」がほとんど形成されない事も多くあります。

 第3章では、「自然の敷石」と「自然の石組」がそれを形成している石や岩の大きさによってその効果の大きさに違いがあることを記述しています。
 砂防堰堤の建設以前よりも傾斜が少なくなった上流側に「自然の敷石」や「自然の石組」が出来たとしてもそれらを構成する石や岩は、砂防堰堤の建設以前に比べて小さな石や岩ばかりです。あるいは、堆積した土砂が砂や砂利ばかりで「自然の敷石」や「自然の石組」が形成されない場合もあります。
 したがって、砂防堰堤の上流側では、土砂の流下を抑制する機能が減少します。「自然の敷石」や「自然の石組」が小さな石や岩ばかりで形成されていますから、普通の規模の増水であったとしても、それらの石や岩だけでなくそれらの真下の地中にある土砂も容易に流下してしまいます。石や岩が小さくなっても、水量が以前より減少することは無いのですから。もし、上流側に土砂崩れなどがあれば、そこで生じた小さな土砂は下流に向けて際限なく流下し続けるでしょう。以前は石や岩が多くあった上流側の流れも、砂防堰堤の建設以前と比べて水流を遅延させる効果を減少させています。

 砂防堰堤は、多くの土砂を堆積させているので、土砂の流下を防いでいるように見えますが、実際の砂防堰堤上流側では、僅かな増水であっても、以前には流下することが無かった小さな土砂を流下させ続けています。砂防堰堤上流側の河川敷に広がるのは、その多くが増水があれば流下して行く土砂ばかりです。砂防堰堤上流側では、自然の渓流が持っていた治水的効果も失い、急激な増水と急激な減水を生じさせています。
 さらに、もう一つの問題があります。砂防堰堤の下流側へは、大きな石や岩がほとんど或いは全く流下することが無くなっています。

「砂防堰堤」の下流側で発生する不都合
砂防堰堤の下流側では、小さな土砂ばかりが流下して来る機会が増え、大きな石や岩が流下して来ることが無くなります。
 小さな土砂だけが流下して来るのは、堰堤の上流側に小さな石や岩や小さな土砂ばかりの土砂堆積が形成された後から生じてくる現象です。でも、大きな石や岩が流下して来なくなるのは、堰堤の建設直後から発生することです。

 砂防堰堤から小さな石や岩と小さな土砂が常に流下して来ても、堰堤直下で直ぐに問題が発生することはありません。それらの土砂のほとんどはさらに下流へと流下して行くだけです。この場合では、それらの土砂が流下して下流域に至るまでの区間で問題が発生することが多いと考えられます。
 上流やそれに近い中流域であれば、僅かな増水時の時にも砂や小砂利など小さな土砂が流下し続ける問題が生じます。下流に近い中流域であれば、流下して来た小さな土砂が堆積し続けることが問題になります。
 でも、常に続く小さな土砂の流下よりも重大な問題は、砂防堰堤の下流側に大きな石や岩が流下して来なくなる事です。

 自然状態の河川の流れの中や河川敷に堆積している石や岩は、様々な増水の機会に、それぞれの大きさごとに移動し流下して行きます。それらの石や岩の中でそれぞれの場所にある大きな石や岩は容易に流下して行かないので、次の移動の機会が生ずるまでの間「自然の敷石」や「自然の石組」を形成していることが多いのです。それでも、それらの石や岩も、いつかは移動し流下して行きます。
 言い換えると、河川や河川敷にある大きな石や岩は、長い期間の間に少しずつ流下して入れ替わりながら、それぞれの場所で「自然の敷石」と「自然の石組」を形成していると考えられるのです。
 ですから、特別規模が大きな増水や規模の大きな増水が発生して、砂防堰堤の下流側にあった大きな石や岩が流下して行った後で、それに代わる大きな石や岩が流下して来なくなれば、大きな石や岩による「自然の敷石」や「自然の石組」は形成されなくなり、砂防堰堤の下流側に元からあった土砂流下抑制機能の多くが失われます。

 大きな石や岩であるほど、土砂流下抑制機能が強い「自然の敷石」や「自然の石組」を形成します。
 そのような大きな石や岩が流下して来なくなった、砂防堰堤の下流側の流れに「自然の敷石」や「自然の石組」が形成されたとしても、それらは、下流側の川底深くに埋もれていた石や岩や、堰堤上流側から流下して来た小さな石や岩による構造であり、長い期間に亘ってその場にとどまり土砂の流下を押し止め続けることはありません。
 それらの「自然の敷石」や「自然の石組」は、通常の増水であっても破壊されることが多く、それらの石や岩だけでなく、その真下の地中にある多くの石や岩を、多くの土砂を造作なく流下させることになるでしょう。水流の中やその周囲の石や岩が小さくなったとしても、流れる水量はそれまでと同じなのですから。
 つまり、砂防堰堤の下流側では、それまで発生することの無かったほどの激しい土砂流下が始まります。

「砂防堰堤」下流側の河床の低下
 砂防堰堤下流側で上述の土砂流下が始まれば、いやでも河床が低下します。先ず、堰堤直下の土砂が流失して堰堤の基礎を侵食する状況が発生します。そうでなくても堰堤直下は落下する水流によって深くなり易いのです。堰堤直下をコンクリートで固めるとか、コンクリートブロックを設置するとか、小規模な堰堤を追加して設置するとかの対策が取られている砂防堰堤は数多くあります。
 土砂流下による侵食によって川床の位置が深くなるので、それまで河川敷や山裾に大きな石や岩がある事で支えられていた山裾が崩壊して土砂崩れが発生することも、或いは小さな沢が崩壊する事も珍しくありません。これもコンクリートを張り付け、或いはコンクリート護岸を設置して、崩落を防ぐ工事が行われることが多くあります。
 砂防堰堤の下流側で山裾が侵食されることも砂防堰堤の目的とは真逆の効果です。砂防堰堤下流側の土砂流下が、河川の河床に堆積していた土砂だけでなく、かつて水流が及んだことの無かった地下の地表面にまで及ぶこともあります。この場合では、水流の底の小さな土砂が研磨剤のように働いて、地下の岩盤までも侵食を続けるようです。

 それまで発生することの無かった激しい土砂流下が始まった直後であれば、河床の低下は砂防堰堤直下で最も強く、下流方向に至るほどその傾向が少ないと言えます。でも、河川の水流は流域全体でその傾斜の釣り合いを取るように働きます。元あった大きな石や岩が無くなり、上流側から大きな石や岩が流下して来なくなった区域が次第に下流側に広がりますから、河床の低下も次第に下流方向に広がります。
 これは、砂防堰堤の上流側の傾斜が上流に向けて次第に変わって行くのと対照的な現象だと言えます。

 砂防堰堤下流側の河床の低下は下流に向かって拡大しますが、どこまでも拡大を続ける訳ではありません。下流側の河床の侵食は何処かの時点で停止する可能性が大きいと考えられます。
 第一に、砂防堰堤下流側の川底の地表面に岩盤があれば、その場所ではそれ以上には侵食は進まないようです。
 第二に、砂防堰堤の下流側で「自然の敷石」と「自然の石組」を形成する石や岩の大きさが、増水時の水流の強さに見合うだけの大きさになる場所に至れば、それより下流側には河床の侵食が進まないことが考えられます。つまり、侵食が進む砂防堰堤の下流側であっても、大小の増水によっても流下しない「自然の敷石」と「自然の石組」が形成される場所に至れば、それ以上は河床が侵食しないと考えられます。
 それは、砂防堰堤の下流側で支流や沢が合流して、大きな石や岩が供給されている場合などが該当するでしょう。しかし、そのような状況が無ければ、特別規模が大きな増水や規模の大きな増水がある度に、砂防堰堤下流側の侵食は下流側に拡大して行きます。堰堤の下流側に元からあった大きな石や岩は、ほとんど全てが堰堤より上流側から供給されていたのですから。  
 第三には、砂防堰堤の上流側にも元の大きな石や岩が堆積して、堰堤の下流側にそれらが流下するようになった場合。でも、実際にはその可能性は極めて少ないのです。私がそのような状態の砂防堰堤を見たのはただの一度きりです。
 砂防堰堤下流側で発生する河床の低下とそれに伴う大量の土砂流下の影響は大きいものです。前述で、砂防堰堤上流側から常に小さな土砂が流下していることを記述しましたが、多くの場合で、それよりも大きな影響を及ぼしていると考えられます。
 小規模な増水であっても、砂防堰堤の上流側からも下流側からも大量の土砂が流下して行きます。中流域には大量の土砂が流下して来てその区域の治水が困難になります。それらの区域の淵の多くが小さな土砂によって埋まります。また、中流域では川床への不必要な土砂堆積も多く発生する事でしょう。
 間違えた砂防堰堤の影響は土砂に関してのみ発生するのではありません。「自然の敷石」や「自然の石組」が、流水に対してもその流下を抑制している事を既に説明しました。流水に対して効果が大きな「自然の敷石」と「自然の石組」を形成することが無くなった砂防堰堤の下流側でも、上流側と同様に、以前と比べて急激な増水と急激な減水が発生します。

 大きな石や岩を流下させるのは特別規模が大きな増水や規模の大きな増水の機会に限られますから、砂防堰堤下流側で以前には無かったほどの土砂流下や侵食が始まるのは、砂防堰堤が建設された後に随分の期間が経過した後であることが多いでしょう。ですから、まだそのような状況が発生していない砂防堰堤であっても、ほとんどの砂防堰堤で上記の現象が発生する可能性が多くあります。

「砂防堰堤」の間違い
 砂防堰堤の多くが、その意図したところとは全く逆の効果を及ぼしている事を具体的に説明しました。しかし、砂防堰堤の元々の目的が全くの間違いであったとは考え難いのです。それでも間違えた結果を招き寄せてしまいました。どこが間違ったのでしょうか。
 砂防堰堤の上流側に以前よりも小さな石や岩と小さな土砂による河川敷を形成させてしまったこと、同じく下流側にも、以前よりも小さな石や岩と小さな土砂による河川敷を形成させてしまったこと、これが間違いの全てであると考えています。

  このことは、自然状態の河川上流部に見る「滝」と比較すると直ちに納得出来るのではないでしょうか。「滝」の上流部ではその下流部と比べればその流れが穏やかであることが多いのですが、その流れでも「淵」や「荒瀬」を見るのが普通です。滝の上流部でもその下流部でも、同じような大きさの石や岩があり、似通った様相の水流が形成されています。
 また、長い年月を掛けて形成された自然の滝壺は、滝の直下にとどまり、川床の浸食を下流まで広げる事はありません。それに対して砂防堰堤の場合では川床の浸食が下流に向かって拡大し続ける事が普通です。

 これらのことを考えれば「砂防堰堤」の間違いは明瞭であり、その改良方法も容易に推測出来ます。ほとんどの砂防堰堤はその構造の高さが高過ぎます。また、多くの砂防堰堤はその上端が水平です。
 これらによって、堰堤上流側に小さな土砂ばかりの河川敷を形成し、それらの土砂だけが流下するばかりで、大きな石や岩が下流側へと移動流下することが無くなってしまいました。言い換えると、自然で正常な土砂流下現象が砂防堰堤によって途絶されてしまい、上流になるほど石や岩の大きさが大きくなると言う自然の土砂流下の連続性が失われ、それぞれの場所での本来の大きさの石による「自然の敷石」や「自然の石組」も失われたのです。
 つまり、これまで建設されてきた砂防堰堤のほとんどは、上流と中流の土砂流下と堆積の規則性を無視したものであったので、その目的を達成することなく、さらに、自然に生じていた治水機能を失わせる結果を生じさせていると言えます。「砂防堰堤」の間違いを正すためには、自然の土砂流下の仕組みを取り戻せば良いと考えられます。
 ところで、上述した二つの間違いの他にも、砂防堰堤にはもう一つの間違いもあるのです。

「砂防堰堤」の耐用年数
 多くの砂防堰堤が間違いであることを説明しました。でも、間違いとは言えない砂防堰堤もごく少数ですが存在しています。それは、堰堤に真近い上流側にも多くの石や岩を堆積させて、その上流側も下流側も似通った様子の水流を見せている砂防堰堤です。
 ところが、この間違いではないはずの砂防堰堤もよく考えると、やはり間違いである可能性が大きいのです。それは、砂防堰堤の耐用年数の問題です。
  コンクリートの建造物の耐用年数はどれほどなのでしょうか。都会で見る一般的な建築物の場合では、100年程度を目途にしていると言われているようですが、実際には50〜60年ほどの経過で建て替えていることが多いようです。
 砂防堰堤の場合では、定かではありませんが、おそらく一般の建築物よりは長いと考えられるのですが、必ずしもそうとばかりは言えないようです。

 かつて砂防堰堤があった場所に、砂防堰堤の残骸が残っている場所を何箇所か見たことがあります。それらは大きな増水があった際に破壊されたと聞いています。それらの場所では、過去に堰堤そのものであった大きなコンクリートの塊が残されてはいましたが、破壊された堰堤がどこにあったのか正確に判断することが出来ませんでした。それらの場所で破壊されたのは堰堤の本体だけでなく、設置された岸辺あるいは山裾も削り取られていたのです。
 このことは、砂防堰堤が破壊される時にはその構造のほとんどが根こそぎ破壊される可能性が大きいことを現しているのではないでしょうか。つまり、砂防堰堤の一部だけが破壊されて残った部分が何時までもあり続けることは多くなく、短期間に多くが破壊されて、大量の土砂が短い期間にいっぺんに流下して行く可能性が大きいと言うことではないでしょうか。
 これは、土石流の発生或いはそれに近い土砂流下の発生を意味します。土石流や大量の土砂の流下を防ぐ目的で建設した砂防堰堤であっても、その耐用年数に至れば、土石流やそれに近い状態で土砂を流失させる可能性が大きいのです。
 今現在、堰堤に真近い上流側にも多くの石や岩を堆積させて、その上流側も下流側もかつての河川敷の様子と同じような水流を見せている砂防堰堤であっても、その可能性は否定できないでしょう。

 大雨のあった後のニュースとして、増水による砂防堰堤の破壊が報道されることがあります。詳細は承知していませんが、それらの多くで砂防堰堤がいちどきに破壊されているのではないでしょうか。実際、砂防堰堤の破壊により、土石流状態が生じて人命が失われたニュースもありました。
 それらのニュースからは、砂防堰堤がその耐用年数に至る前に破壊されている可能性も考えられるのです。或いは、想定されている耐用年数自体が、私の考えよりも短いのかも知れません。

 上流側と下流側の双方で不都合を生じさせている砂防堰堤の場合でも、その上流側や下流側に土砂崩れや土石流が発生して、以前あったような大きな石や岩による水流を復活させる可能性は否定できません。しかし、それは何時の事でしょうか。耐用年数と考えられる100年ほどの期間の内に、砂防堰堤が対応できる土砂崩れや土石流が発生するかどうかは誰にも分かりません。ひと月以内にそんな出来事が発生するかもしれません。或いは、200年の後かもしれません。
 多額の費用をかけて砂防堰堤を建設した上に、何時、何処に、どの程度の規模で発生するかも知れない土砂崩れや土石流を待ちながら、堰堤を管理し維持し続けることが正しいことでしょうか。
 土石流の発生を待ち続けている間であっても、上流側から小さな石や岩と小さな土砂が大量に流下し続け、山裾は侵食され、下流側からも大量の土砂が流下し続けます。急激な増水と急激な減水が発生し続けています。さらに、その堰堤の上流側に土石流が発生しなかったとしても、その堰堤の耐用年数に至れば、土石流と同様の土砂流下が発生します。  

 多大な費用を費やして建設しても、その目的に反する不都合を幾つも生じさせ、将来への不安がある砂防堰堤を設置し続けてきた事は間違いです。
 砂防堰堤の破壊を防ぐためにその強度を強化する工事も行われていますが、それらは問題を先送りするだけで、何の解決ももたらしません。    

                        

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