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「なぜ、上流の水の流れは透明なのか」


―河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える―

 第7章 河川から流出した土砂と「砂浜海岸」(2/3)-第2節

第2節 「砂浜」「砂礫浜」の形成


「砂浜」「砂礫浜」が形成される過程
 著者は、河川によって海に流出した土砂が、砂浜や砂礫浜に打ち上げられる現象は、一つの現象では無く、四つの個別の現象が連続的に順番に発生する事によって生じていると考えています。
 それら四つの現象はそれぞれに異なった現象であり、それぞれに異なった気象条件などによって発生する個別の現象です。四つの現象はそれぞれが砂や砂礫の移動を生じさせる現象ですが、それらの幾つかが同時期に発生することはあっても、全てが同時に発生する可能性は少ないと考えられます。
 それらの現象は何れも砂や砂礫を移動させるので、砂や砂礫はそれら個別の現象ごとに引き継がれて移動しているのに過ぎません。それら個々の過程での移動や、次の過程への引継ぎが途切れれば、砂浜、砂礫浜は形成される事なく侵食されます。ですから、それらの侵食も決して異常な現象では無く、四つの現象の不連続の当然の帰結であると考えられます。

 かつて砂浜や砂礫浜があった海岸では、自然状態で四つの現象が問題なく発生し、砂や砂礫の移動が連続していたと言う事であり、砂浜や砂礫浜が元々無かった海岸では、四つの現象の何れかの連続が成立しなかったので、砂浜や砂礫浜が形成されなかったのだと考えられます。
 ですから、砂浜や砂礫浜が侵食される現象は、かつての自然状態の何かしらかが満たされなくなった事により、四つの現象の何れかの連続が成り立たなくなった現われだと考えています。
 以下に四つの現象のそれぞれについて説明します。

「砂浜」「砂礫浜」が形成される第一の過程
 河川に増水が生じて、多くの土砂が海に排出されます。通常の水量の流れでは、海に流出する土砂はほとんど無いか、あってもその量は少ないと考えられます。

「砂浜」「砂礫浜」が形成される第二の過程
 海岸の波は沖合から周期的に押し寄せ、岸辺が浅くなった所で順番に立ち上がり陸地に押し寄せています。この時、波が立ち上がり移動する場所の海底の土砂は、陸地側に向かって少しずつ移動しています。海底が深い場所では沖合からの波が立ち上がる事は無いので、深い場所の海底の土砂が陸地に向かって移動する現象は生じません。

 第一の過程で、増水により海に排出された土砂の内で、渚近くの浅い場所に堆積した土砂が、波の力によって岸辺近くの海底や渚に打ち寄せられ或いは打ち上げられます。
 この時に岸辺に寄せられる土砂は、河川の流れによって新たに海底に堆積した土砂ですから、それらが堆積する場所は河川の水流の場所やそれに近い海底に限られています。したがって、それらが打ち寄せられ或いは打ち上げられる場所も河口や河口の流れに近い場所に限られます。
 風が強かったり、遠くからのうねりが強ければ、発生する波は深い場所から生じて大きくなり、逆の状況であれば、波は岸辺近くの浅い場所で小さく立ち上がります。言い換えると、波が大きい時には深い場所から多くの土砂を岸辺側に運び込みます。深い場所に堆積していた土砂が大きな波によって岸辺側に移動してしまえば、その場所は深くなるので、その場所から新たに波が立ち上がる事は無くなります。そして、波が小さい時には浅い場所で少量の土砂しか移動させないと言う事だと思います。
 ですから、河川から排出された海底の土砂は、浅い場所に堆積するほど岸辺に打ち寄せられ打ち上げられ易く、移動する土砂量もその都度に生じている波の大きさごとに異なっています。
 波が、岸辺に近い場所から立ち上がり打ち寄せる事は、自然状態の海岸の多くの場所で生じている現象で、それは岸辺に近い海底が浅いからです。でも、第一の過程が発生した場所では、そうではない場所と比べてその様相が異なって出現します。
 第一の過程が生じた場所では、岸辺から離れた海底にも多くの土砂が堆積して通常より浅くなっているので、そうではない場所よりも遠くから波が発生します。つまり、いつもより遠い場所から波が立ち上がります。この時には、波が幾重にも重なって生じている現象を見る事が多いのです。ですから、この現象は誰もが見る事が出来る現象です。

  安倍川でもこの現象は明らかでした。河口から離れた場所の海岸では、岸辺近くで波が一重だけ立ち上がり崩れ落ちていましたが。河口と河口近くの沖からは幾重にも波が立ち上がり岸辺に打ち寄せていました。そして、海底の土砂が打ち寄せ打ち上げられる場所は限られて、河口の前と、河口の直ぐ東岸で大型風車が設置されている前の岸辺でした。
 この幾重にも立ち上がる波は、普段の河口で生じている波よりも遠くから高く立ち上がる事が多く、その情報は近郊に住むサーファーの皆さんにすぐさま広がり、幾人もの皆さんがたちまちにして集まって来ます。

 サーファーの皆さんが波を楽しむようになると、安部川の河口では、河川水と海水との狭間に、河口を横断する形状で砂州が次第に形成され、海底からの土砂移動が継続するほどに砂州は海岸線方向に成長していきます。砂州は西岸から東に向けて成長する事が多く、少しの機会には東から西に向かう場合もあります。また、頻度は少ないのですが、河口から沖に向かって鳥趾状砂州の形状を示す事もあります。
 サーファーの皆さんが楽しむ期間はそれほど長くは続きません。ほとんどの場合で2〜3日、長くて1週間ほどでしょうか。河口近くの海底に堆積した土砂が岸辺やその近くに戻されてしまえば、遠くからの波は発生しなくなります。その時には河口を横断する砂州もある程度の距離まで成長しています。
 安倍川の増水の時期や頻度やその規模は全くお天気任せで、河口の状況や排出される土砂量もその都度異なっている事から、砂州の位置もその様相も常に異なっていますが、多くの場合で河口を西から東へと向かう砂州を形成します。それらいずれの場合でも、砂州は、ある程度以上の増水が再び発生すれば海に向かって流失し、その回数は年に十数回程では無いでしょうか。この時、河口で砂州を形成した土砂は再び海底に堆積する事になります。

 私が観察した時、河口の直ぐ東側の岸辺では、沖からの波が継続して続くので、渚線が海側へと前進していました。でも、沖からの波が無くなれば、その働きも終了します。
  河口直ぐ東側の岸辺が増大して土砂集積地になる様子は、それぞれの増水の後ごとに異なり、広い岬状に海へと前進して人の背丈より高くまで土砂を堆積させる事があり、前進が僅かで打ち寄せた土砂量も少ない場合もありました。
 沖から発生する波の数が多くなる現象は、普段でも波が多く生じる遠浅海岸の場合でも発生していると考えられ、河口とその近くの特定の場所では他の場所と比べてより遠くからより多くの波が重なって打ち寄せているのではないでしょうか。

  この第二の現象によって、第一の過程で浅い海底に堆積した土砂の多くが岸辺やその近くの海底に打ち寄せられ打ち上げられます。河川からの土砂堆積がある海底に、浅い場所が無くなればこの波の発生は無くなります。遠浅河岸の場合でも、この第二の現象が無くなれば増加した波の数も減少すると考えられます。
 第一の過程による土砂が少し深い場所に堆積している場合では、台風や低気圧による遠くからの強いうねりがある時に限って大きな波が発生して、深い場所の土砂を陸地側に打ち寄せ打ち上げます。この場合でも、河川からの土砂が海底に堆積している場所では、そうではない場所よりも遠くから波が発生します。そのような大きな波は何時でも発生するわけではありません。場所によって異なるでしょうが、波が大きい程その発生頻度も少ないことが考えられます。
 海底が浅い場所では、岸から離れた遠くからも幾重にも波が立ち上がることは、遠浅の海岸を観察すれば理解できることです。また、増水の後の河口近くでそのような海底地形が形成されることは、各地のサーファーの皆さんがよく承知している事でしょう。

  強いうねりによる大きな波が発生する場所よりも深い海底に堆積した土砂が陸地側に打ち寄せられることはありません。深い海底に堆積した土砂は、より深くの海底に落下していく事も考えられます。そして、それぞれの海岸ごとに通常の最も大きな波の大きさはほぼ決まっています。外洋に面した海岸ではその波は大きく、内湾に面した海岸の波は小さいのが普通です。また、湖に発生する波はそれらよりもずっと小さなものです。
  例えば、静岡の前浜海岸での最も大きな波は高さ6m程度であると言われています。
  したがって、河川から海へと排出された土砂の全てが岸辺に打ち寄せられる事はありません。どれほど多くの土砂が河口から排出されたとしても、岸辺に戻されるのはその内の一部、岸辺近くの浅い海底に堆積した土砂に限られます。これらの実際は、河口が面している海岸の海底の地形と河口の地形ごとに異なっていると考えられます。

  この第二の過程では重要なことがもう一つあります。河口から排出された土砂が波によって打ち寄せられて堆積する岸辺が無ければ海底からの土砂も堆積しようが無いのです。つまり、打ち寄せられる土砂が堆積するはずの場所がコンクリート護岸や岸壁だったり、コンクリートブロック群や、導流提であってはならないのです。その場合では岸辺に土砂が堆積することが困難になる可能性が大きいと考えられます。

「砂浜」「砂礫浜」が形成される第三の過程
 第二の過程により、河口近くの浅い波打ち際や岸辺に堆積した土砂は、渚を斜めに打ち上げる波が発生する事により、海岸線を伝わって遠方まで移動して行きます。この第三の過程は「砂浜」「砂礫浜」の全ての渚で生じていると考えられます。
 私が、その日、前述の土砂が集積した渚よりも東側の渚で、実際に観察した波は、岸辺に向かって一斉に立ち上がるのでは無く、南西側から北東へ向かって連続的に立ち上がり、連続的に打ち寄せ、連続的に崩れていました。陸地に打ち上げる波は陸地に向かって真っ直ぐではなく、渚を斜めに打ち上げていたのです。
 ですから、岸辺の浅い場所の土砂は、斜めに打ち寄せる波によって渚を斜めに打ち上げられ、次々に続く波によってさらに横へ横へと移動していました。
 多くの土砂がこのようにして遠方まで移動して行くのだと考えられます。でも、波の勢いが弱ければ打ち上げられた土砂も真っ直ぐ海底に戻る事も生じるので、その場合には、土砂は陸地と海の間をジグザグに移動しているようです。この様子もその日の前日に観察することが出来ました。
  これらの様子は動画にしてWEB上に公開しています。
動画2012年7月16日(https://youtu.be/6a7EB-p5M1U)
動画2012年7月17日(https://youtu.be/QNbD4PeE-Ek)

 土砂が渚を横方向に移動している事を発見した時、土砂の中の拳より少し大きい石の移動速度は、実際の計測に基づく計算によると1時間で250m程にも達するものでした。
 一度の波で移動する土砂の量は少なくその距離も僅かなものです。でも、波は何度も繰り返し打ち寄せます。渚に斜めに打ち寄せ打ち上げる波が強い程、多くの土砂を遠くまで移動させ、弱ければ僅かな量を少しだけ移動させることでしょう。
 この斜め方向の波が発生している時には、立ち上がり崩れ落ちる波の周囲で横方向へ向かう潮流が発生している可能性も考えられます。或いは逆に、岸辺近くの潮流が、斜め方向に向かう波を形成している可能性もあるかもしれません。
 斜めに打ち上げる波は浜辺の奥にまで達する大きな波とは限らないので、渚を移動する多くの土砂は渚やその近くの浅い海底に堆積することでしょう。

 これらの状況から、渚や浅い海底を移動する土砂が砂礫浜の「ステップ」を形成していると考えられます。つまり、「ステップ」は、渚とその近くの浅い海底から形成され始めるのではないでしょうか。
 「遠浅の海底」を持つ砂浜の場合であれば、岸から最も離れた場所で、最初に立ち上がる波が最も多くの海底の砂を岸辺に沿った方向に移動させている事が考えられます。そして、その波は岸辺に近づくにしたがって、岸辺の形状に沿ってほとんど正面から渚に打ち上げているのではないでしょうか。ただし、著者が「遠浅の海岸」を観察する機会は多くありませんでしたから、これらの事は、実際に「遠浅の海岸」を観察して確かめて頂く必要があります。
 この第三の過程では、所謂「沿岸流」との関係の可能性を考えるのですが、土砂を移動させているのは、あくまでも波であると考えています。「沿岸流」が海底の土砂を全く移動させていないとは考えていません。しかし、砂礫浜や砂浜の土砂のほとんどを移動させているのは「沿岸流」ではなく、渚に斜めに打ち上げる波であり、また、遠浅の海岸では、幾重もの波の内で最も岸から離れて最初に立ち上がる場所の波が最も多く土砂を移動させていると考えられます。
 私がWEB上に公開した他の動画では、握りこぶしを三つ四つ重ねた程の石が小さな波によって岸辺に打ち寄せられ移動する様子も掲載しています。
 また、津波の時には、巨大な岩が海岸に打ち上げられることも知られています。水流による土砂の移動と、波による土砂の移動はその原理が異なっているのではないでしょうか。河川の水流と移動する土砂の関係はその解明が不十分ですが、波と土砂の関係についてはそれ以上に解明が進んでいないと思います。
 沿岸流が握りこぶし程の石を移動させることが出来なくても、渚に打ち上げる波はそれらを容易に移動させています。

 著者が、上述のように、波によって渚を移動する土砂の様子を実際に観察した時以外には、それほどの距離を移動する土砂を目の前で判断できた事はありませんでした。
 著者は何度も海岸に通いましたが、長い期間を毎日観察したのではなく、終日同じ場所を見続けていたのでもありませんでしたから、この現象の発見は、短期間の観察の結果に過ぎません。
 それでも、渚を移動する土砂が常に一定の量で一定の速度で一定の距離を移動しているのではなく、急激に遠くまで移動したり、僅かな距離しか移動しなかったり、移動する量もその場所もそれぞれの機会ごとに異なっていると推測することが出来ました。
 砂浜や砂礫浜が長い距離続いている場所では、ある場所で土砂が移動していても他の場所では移動しない事や、移動する土砂の量が場所によって異なる事も考えられます。長い海岸線では、浜辺や海底の地形が全く同じに続いている事は多く無いと考えています。

 安倍川河口近くの浜辺の場合では、本州沖や沖縄付近に低気圧や台風がある時にそのような波が強く発生するのではないかと思いました。著者が観察した時には、海岸に吹く強い風との関蓮性は判断出来ませんでした。また、その時の「沿岸流」の状況は全く不明です。
 各地の海岸で、砂や砂礫を移動させている波の発生原因とその発生状況は、それぞれの海岸ごとに異なっていると考えます。それらは、現地の皆様によって実際に確かめていただくのが最も良い方法であると思います。
 渚に斜めに打ち上げる波がどのような条件で発生するのかは定かとは言えませんが、そのような波が時々発生していることは確かです。この、波の発生頻度とその強さが発生の都度異なっている事が、或いは、その発生状況が場所ごとに異なっている事が、第三の過程が多くの人々に知られることを遅らせたのではないでしょうか。

 波によって移動する土砂の様子を、私が実際に観察したのは、2012年7月の事でしたが、私の発見よりも以前に、海岸の土砂が波によって移動していることを理解して発表していた研究者がいました。以下、少し長い引用です。
 「駿河湾は中央を南北に走る凹地形(中央水道)をもち、南に湾口を開いています。そのため三保海岸に打ち寄せる波の卓越する方向は南であり、南から駿河湾に進行し、海岸に打ち寄せる波は急深な海底地形のために、南北方向の海岸と平行にならず、海岸と約45度の角度で斜交して打ち寄せ、海岸に並行に引いていきます。このような自然の条件が沿岸においては砂礫を北(湾奥部)方向に運搬するエネルギーを生じさせ、特に荒天時には大量の砂礫が海岸に運搬されてきました。駿河湾西部の三保砂嘴、伊豆半島西海岸の戸田、井田、大瀬崎の砂嘴(礫提)も上記のエネルギーによって形成されたものといわれています。(星野、1976:佐藤・柴崎、1987:柴ほか、1994)。」(地質ニュース508号22〜23頁より)
『「清水市三保における海岸浸食―清水市折戸海岸の現況―」地質ニュース508号、21〜30頁、1996年12月 佐藤 武』  

  この文章は、当時、東海大学海洋学部に在籍した「佐藤 武」教授によるものですが、三保海岸に発生する、海岸に斜交する波が(南西側から北東に順番に立ち上がり崩れる波が)砂礫を北に移動させている事を明確に記述し、さらにその波の成因をも明らかにしています。 私は、この文章によって、三保の海岸で見た、海岸に斜めに押し寄せていた小さな波の事を思い出しました。

 第三の過程も、渚に斜めに打ち上げる波が発生すればいつでも生じている現象です。この過程も他の過程と同じく個別に発生している現象ですから、渚や岸辺近くの海底に土砂が多くても少なくても土砂を移動させています。したがって、砂浜や砂礫浜を増大させる時でも侵食させる時でも働いている現象です。つまり、この第三の過程は、砂浜や砂礫浜を増大させる現象であり、同時に、それらの浜辺を浸食する現象でもあるのです。
言い換えると、第三の過程は、第二の過程から始まる土砂の供給が保たれていれば砂浜や砂礫浜を維持し或いは増大させ、供給が不足したり無くなれば、海岸は浸食され或いは砂浜や砂礫浜が消滅すると言う事です。
 例えば、この現象の発生を妨げる構造物が渚やその近くの海底に設置されれば、土砂の移動はそこで終わります。しかし、障害物を超えた向こう側でも同じ現象が発生することが多いので、そこでは土砂が移動して来る事が無く、移動して行くばかりになります。
 海岸から沖に延びる突堤や防波堤などがその障害物です。これらは渚を伝って移動する土砂の移動を妨げています。同じく海岸から沖へと延びても、土砂の移動を妨げることが少ない構造物もあります。それは多くの杭や柱の上に設置された船着き場や遊歩道などです。それらは岸辺に発生する波と土砂の移動を妨げることが少ないと考えられます。

 前述の「佐藤 武」教授は、海岸を移動する砂礫について、さらに詳しく言及しています。  「砂礫の移動する海岸の、海岸、海岸線、はこのような供給と運搬という自然のバランスの上に成り立っており、このバランスが負の方向にくずれることがとりもなおさず浸食にほかならないのです。」(同23頁)。  
 また、運搬される砂礫が行き着く先についても言及しています。  
 「現在から80年ほど前に測量された三保の地形と最近の地形を比較すると(第4図)、人工的な埋立てを除き、砂嘴先端部の北東側に最大で400mほどの海岸線の広がり(砂礫の堆積)が見られます。」
と記述して1914年(陸地測量部)と1994年(国土地理院)の1/25000地形図を掲載しています。(同23〜24頁)

「砂浜」「砂礫浜」が形成される第四の過程
 前述の第三の過程が生じて、海底の「遠浅な海底」に大量の砂が堆積している砂浜や、岸辺近くに広い「ステップ」が形成されている砂礫浜に、大きな波が発生すれば、浜辺の奥にも波が到達して多くの砂や砂礫が陸地側にもたらされます。この時には、大きな波は普段より離れた遠くから生じて、浜辺のより奥へと達します。
 大きな波の大きさはその時々によって異なりますから、それぞれの波の発生の機会ごとに浜辺の奥への到達距離が異なります。このことが渚から浜の奥に至る斜面の凹凸を形成します。
 「遠浅の海底」の土砂が少なかったり、「ステップ」が形成されていない時に大きな波が発生すれば、砂浜、砂礫浜は一気に侵食されます。多くの砂や砂礫が海底に引き戻され落ち込んでいきます。浜辺の土砂は減少し浜辺の面積も減少します。

 簡単に言って、海底に砂や砂礫の多い「遠浅な海底」や「ステップ」が形成されていれば砂浜や砂礫浜が問題無く形成され、逆に、それらの砂や砂礫が少なく、既に侵食されていれば、砂浜や砂礫浜も侵食されるのです。
 「ステップ」の説が海外から紹介された時に、それらの現象を発見出来無かった事は、当時、既に日本の砂礫浜には「ステップ」がほとんど存在することがなく、多くの砂礫浜海岸が侵食される一方だった可能性も考えられます。
 砂浜や砂礫浜が急激に変化するのはこれらの事情によります。もちろん、大きな波でなくても波が浜辺に打ち上げる度にこれらの現象は繰返されているのですが、大きくない波の場合では目に見えて生じる変化が少ないので、人々に気付かれることが少ないのではないでしょうか。

 波が海底の土砂を岸辺に打ち寄せ打ち上げる、或いは、波が岸辺の土砂を海底に引き込む現象については、未だに詳細な説明がなされていないようです。このことに関しては著者もほぼ同じですから、残念なことに上述以上の事は明確に説明が出来ません。
 ただ、著者はその現象に以下のような可能性を考えています。陸地側の堆積土砂も岸近くの海底の堆積土砂も、それぞれの場所の波の大きさごとに土砂の組成ごとに、それぞれに適した傾斜があり、海側の傾斜がそれより浅くなれば、大きな波が陸地側に土砂を堆積させ、深くなれば、大きな波が陸地側の土砂を海に引き戻すのではないでしょうか。この考え方は推測を基にした個人的な仮説に過ぎません。
 また、土砂が陸地に堆積する事については、次のように考えています。打ち上げられた波の水の一部が浜辺に浸み込むことにより、打ち上げた時と戻す時とで波の水量が異なるので、打ち上げられた土砂の全てが戻されること無く、打ち上げられた土砂の一部が堆積するから浜辺に土砂が堆積すると考えられます。
 ですから、より多くの水が浸み込む波の先端側ほど土砂の堆積量が多くなっています。このことは、岩盤の海岸には砂が堆積しないことからも明らかではないでしょうか。

 大きな波や小さな波が発生して、砂や砂礫を浜辺に打ち上げる或いは浜辺から海へと引き戻す現象も、ありふれた普通の現象です。岸辺や岸辺近くの浅い海底に砂や砂礫が多ければ浜辺は増大し、逆に少なければ浜辺は侵食される、それだけのことに過ぎません。砂浜や砂礫浜の侵食は決して異常な出来事ではありません。

 上述した四つの現象は、それぞれに異なった条件で発生する個別の現象ですから、同じく土砂を移動させる現象であっても、それぞれの個別の機会ごとに、移動させる土砂の量が異なっています。そのことが、各過程ごとで土砂量が異なる結果を生み出しています。
 長く連なる砂浜や砂礫浜の形状や状況が、それぞれの場所ごとに少しずつ異なっている事は、各過程ごとに土砂の移動量が異なっている事の現われだと考えられます。
 砂浜や砂礫浜が侵食傾向であれば、それぞれの場所ごとの形状の変化は大きなものになると考えられ、逆に、浜辺の堆積傾向が強ければ浜辺ごとの形状の変化は少なくなると考えられます。この場合では、「遠浅の海底」や「ステップ」がそれらの隠れた調整役を担っていると考えられます。

                   

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